エネルギーマネジメントシステム(EMS)

目次

工場の省エネ対策では、設備を更新する前に、どこでどれだけエネルギーを使っているかを把握する必要があります。エネルギーマネジメントシステム(以降、EMS)は、工場内の電力や熱、設備稼働状況を見える化し、ピーク電力の抑制や設備運用の改善、エネルギー管理の高度化に繋げる仕組みです。

本記事では、導入効果や相談先の選び方を整理します。

工場EMSの見える化項目

工場のEMSでは、電力使用量だけでなく、設備ごとの稼働状況、ピーク電力、空調や冷凍機の運転、コンプレッサーの負荷、太陽光や蓄電池の状況などの見える化が可能です。まずは、どのデータを見たいのかを明確にする段階を設ける必要があります。

見える化する項目確認できること改善につながる対策
工場全体の電力使用量時間帯別の使用傾向ピーク電力の抑制
設備別の電力使用量電力を多く使う設備設備更新・運用改善
空調・冷凍機稼働時間、負荷、設定空調制御・台数制御
コンプレッサー負荷、無負荷運転エア漏れ対策・台数制御
生産設備稼働と消費電力の関係原単位管理
太陽光・蓄電池発電量、充放電量自家消費・ピークカット
デマンド値最大需要電力契約電力の見直し

時間帯別の使用傾向

EMSを導入すると、どの時間帯に電力使用量が増えているかを把握しやすくなります。始業直後、昼休み後、夕方など、ピークが出る時間を確認できれば、設備の起動順や稼働時間の見直しにつなげられるでしょう。

設備ごとのムダ

工場全体の電気代だけを見ても、どの設備が原因かは分かりにくい状態です。EMSで空調、冷凍機、コンプレッサー、生産設備ごとの使用量を見れば、優先的に改善すべき設備を絞りやすくなるでしょう。

生産量あたりの使用量

EMSは、電力使用量だけでなく、生産量と組み合わせて原単位を管理する際にも役立つ仕組みです。生産量が同じなのに電力使用量が増えている場合に、設備効率や運用に無駄がある可能性を確認・検証しやすくなります。

導入しやすい工場

EMSは、すべての工場に同じように向くわけではありません。電力使用量が大きい工場、設備数が多い工場、エネルギー管理が属人的になっている工場は導入効果を検討しやすい一方、見える化後に改善する体制がない場合は慎重な判断が求められます。

区分工場の特徴
導入しやすい工場契約電力が大きい、電気代が高い、設備数が多い
導入しやすい工場空調・冷凍機・コンプレッサーを多く使う
導入しやすい工場省エネ法対応や原単位管理を強化したい
慎重に判断すべき工場電力データを見ても改善する担当者がいない
慎重に判断すべき工場設備別計測の範囲が広すぎて費用が膨らむ
慎重に判断すべき工場見える化だけで満足し、制御や改善に進めない

電力使用量が大きい工場

契約電力が大きく、空調、冷凍機、コンプレッサー、生産設備を多く使う工場は、EMSの導入効果を検討しやすい施設です。一般に、電力使用量が大きいほど、無駄を見つけたときの削減額も大きくなります

設備数が多い工場

複数棟や複数ラインを持つ工場では、電力使用の原因を感覚だけでは把握しきれません。EMSで設備別・エリア別に見える化すれば、どの工場棟やラインから改善するかを判断しやすい状態を作れます。

改善体制の有無

EMSは導入するだけで省エネが完了する仕組みではありません。データを見て、設備の運用を変え、改善結果を検証する担当者や協力企業がいなければ、見える化だけで止まってしまいます

EMSとFEMSの違い

EMSは、エネルギーの使用状況を見える化し、管理・制御する仕組みです。工場向けのEMSはFEMSと呼ばれることもあり、工場内の受配電設備、生産設備、空調、照明などを対象に、エネルギー使用量や稼働状況を管理する仕組みとなります。

エネルギー管理の仕組み

EMSもFEMSも、電力や熱などの使用状況を計測し、データとして見える化する仕組みです。手作業の記録や月次の電気代確認だけでは分からない、時間帯別・設備別のムダ把握に役立ちます。

工場向けのFEMS

FEMSは、Factory Energy Management Systemの略で、工場向けのエネルギー管理システムです。資源エネルギー庁資料では、生産設備のエネルギー使用状況・稼働状況を把握し、エネルギー使用の合理化や設備・機器のトータルライフサイクル管理の最適化を図るものとして位置づけられています。

ISO50001との関係

EMS・FEMSのデータは、エネルギー使用状況の把握や原単位管理にも活用可能です。資源エネルギー庁は、ISO50001について、省エネ・節電に必要な方針、目的、目標を設定し、管理活動を体系的に実施できるようにした世界標準の規格と説明しています。

EMSによる省エネの進め方

EMSの役割は、電力使用量を表示するだけではありません。データをもとに、ピーク電力、設備の無駄な稼働、空調負荷、コンプレッサーの非効率運転などを見つけ、運用改善や設備更新の優先順位を決める流れが重要です。

無駄の発見

まずは、どの時間帯に、どの設備が、どれだけエネルギーを使っているかの把握から始めます。休日や休憩時間に電力が下がらない場合、待機電力や止め忘れ、不要な連続運転が確認対象です。

ピークの抑制

EMSによっては、空調や蓄電池、設備の稼働を制御し、ピーク電力を抑える機能を持つものがあります。デマンド値を下げられれば、契約電力や電気代の見直しにつながる場合もあるでしょう。

改善効果の検証

設備更新や運用改善を行った後は、EMSで導入前後のデータを比較します。削減額や原単位の変化を確認できれば、次の省エネ投資や本社説明にも使いやすくなるでしょう。

EMS導入効果の見方

EMSの導入効果は、工場規模、対象設備、運用体制によっても異なります。公開されている事例では、FEMSによるエネルギー使用量の低減、ピーク制御、原単位改善、BCP対策などが紹介されていました。数値を自社条件に置き換えて確認してみましょう。

エネルギー使用量の低下

富士電機の山梨工場事例では、FEMSを活用し、クリーンルームのFFU最適運転制御や温湿度制御の改良などに取り組んだ内容が紹介されています。2024年度のエネルギー消費原単位は、2015年度実績値比で62%削減という結果です。

電力予測によるピーク抑制

富士電機の吹上工場事例では、電力予測システムを活用し、予測モデルによるピーク制御を行った内容が掲載されています。

工場全体の省エネ活動と合わせ、2019年度省エネ大賞東日本大会の受賞事例として紹介された取り組みです。※FEMS単体の効果ではなく、複数の省エネ施策を組み合わせた事例として紹介されています。

試算例に見るコスト削減と工数削減

ヤンマーの試算例では、年間光熱費7,000万円の工場を想定し、EMSによるリアルタイム確認やデータ分析支援を紹介しています。年間のエネルギーコストを500万円削減する試算も示されていますが、導入効果は条件によって異なる点も併記された試算です。

EMS導入の費用内訳

EMSの費用は、計測点数、対象設備、制御機能、クラウド利用、既存設備との連携範囲で変わります。見える化だけなら小さく始められる場合もありますが、設備制御や複数拠点管理まで含めると費用は大きくなるでしょう。

計測機器とセンサー

電力メーター、温度センサー、流量計、通信機器など、何をどこまで計測するかで費用が変わります。全設備を一気に計測するのではなく、空調やコンプレッサーなど優先設備から始めるのも一つの選択肢です。

システム利用料

EMSには、管理画面、データ保存、分析機能、アラート機能などが含まれます。クラウド型の場合は月額費用が発生することがあるため、初期費用だけでなく運用費も確認が必要です。

設計と運用支援

既存設備との連携や制御まで行う場合は、設計、配線、制御盤改修、試運転、運用支援の費用がかかります。見える化だけか、制御まで行うかで見積もりの前提を分けると比較しやすいでしょう。

相談前チェックリスト

EMS対応企業に相談する前に、電気代、契約電力、主要設備、見える化したい対象、改善したい課題を整理しておきます。事前情報があると、必要な計測範囲、導入費用、期待できる効果を確認しやすい状態です。

確認項目確認する内容
電気料金明細直近12か月分を用意する
契約電力・最大デマンドピーク電力の規模を把握する
主要設備空調、冷凍機、コンプレッサーなどを整理する
計測したい範囲工場全体、棟別、ライン別、設備別を決める
改善したい課題電気代、ピーク、原単位、CO2、管理工数など
既存システムPLC、BMS、受配電設備、太陽光、蓄電池の有無
運用担当者データを見る担当者、改善を進める担当者を決める
導入目的見える化だけか、制御・最適化まで行うかを決める

見える化範囲

工場全体だけを見るのか、棟別、ライン別、設備別まで見るのかで必要な機器や費用が変わります。最初から広げすぎず、電気代や稼働率への影響が大きい設備から検討すると進めやすいでしょう。

改善したい課題

EMS導入の目的は、電気代削減、ピーク抑制、原単位管理、CO2削減、管理工数削減などに分かれます。目的が曖昧なまま導入すると、どのデータを見るべきか判断しにくい状態に。先に課題を抽出しておきましょう

データを見る担当者

EMSはデータを表示するだけでは効果が出にくい仕組みにあたります。誰が定期的に確認し、どの設備の運用を変え、改善結果をどう報告するかの明確化が必要です。

業者選びの際に見るべきポイント

ここではEMSに対応している企業を選ぶ際に見るべきポイントをまとめています。

見える化と制御範囲

紹介企業ごとに、電力の見える化だけか、空調・冷凍機・蓄電池などの制御まで対応できるかを整理します。工場全体、棟別、ライン別、設備別のどこまで対応できるかもチェックの対象です。

工場設備への連携実績

受配電設備、PLC、空調、コンプレッサー、冷凍機、太陽光、蓄電池など、既存設備との連携実績を確認します。工場では、既設設備との相性が導入難易度に影響しやすい要素です。

分析と改善提案

EMSは導入後の運用が重要になります。データ分析、月次レポート、改善提案、省エネ診断、補助金相談まで支援できる企業かを比較し、見える化だけで終わらない相談先を選ぶのがおすすめです。

工場EMSは見える化後の改善体制まで含めて検討する

工場のEMSは、電力使用量や設備稼働状況を見える化し、ピーク抑制や運用改善につなげる仕組みです。ただし、導入するだけで省エネが進むわけではありません。自社の課題と計測範囲を整理し、改善まで支援できる対応企業に相談しましょう。

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