停電でも工場を止めないBCP設計

目次

工場の停電対策は、非常用発電機を置くだけでは不十分です。どの設備を何時間動かすのか、燃料をどう確保するのか、平常時の省エネ対策とどうつなげるのかまで決めておかなくてはいけません。本記事では、エネルギーBCPの設計手順を解説します。

工場の停電は「一時停止」では済まない

売上・納期・品質に影響する

工場で停電が起きると、生産ラインが止まるだけでなく、冷蔵・冷凍設備の停止、品質不良、原材料や仕掛品の廃棄、再立ち上げコストや納期遅延が発生するリスクがあります。

短時間の停電でも、設備によっては復旧後すぐに生産を再開できるとは限りません。品質確認、清掃、試運転が必要になれば、停止時間を超えるロスが生じます。停電は現場トラブルではなく、売上と信用に関わる経営リスクとして扱うことが重要です。

社員の安全にも関わる

停電は社員の安全にも影響します。照明、換気、排気、通信、警報、保安設備が止まれば、避難や状況確認が遅れかねません。

夏場は空調停止による熱中症リスクもあります。工場長には、生産継続だけでなく、安全配慮と事業継続を同時に見る視点が必要です。

まず守るべき設備を決める

すべてを動かそうとしない

停電時に工場全体を通常どおり動かそうとすると、非常用発電機や蓄電池の容量が過大になり、導入費や燃料備蓄量も膨らみます。

BCPでは、すべてを守るのではなく、重要工程の生産ライン、冷蔵・冷凍設備、排水・排気設備、保安設備、通信設備、サーバーなどを優先順位で分けることが重要です。停止時の損失と、何時間動けば被害を抑えられるかを把握し、守る対象を絞り込みます

優先順位を容量設計に落とし込む

判断を属人的にしないために、設備名、停止時の損失、必要運転時間、必要電力、代替手段、復旧優先度を一覧化することが重要です。

設備名 止まった場合の損失 必要運転時間 必要電力 代替手段 復旧優先度
冷蔵・冷凍設備 原材料や製品の廃棄 8時間 必要電力を確認 保冷庫・非常用電源
生産ライン制御盤 ライン停止・再立ち上げ作業 30分~1時間 必要電力を確認 UPS・蓄電池
通信設備・サーバー 受発注や社内連絡の停止 必要時間を確認 必要電力を確認 UPS・クラウド化 中~高

一覧表があると、非常用発電機や蓄電池の必要容量を算定しやすくなります。自工場の設備に合わせて作成しておき、万が一に備えましょう。

停電対策の主な選択肢

非常用発電機

長時間停電への備えとして有効な方法で、重要設備を一定時間動かすことで生産停止や品質劣化のリスクを抑えられます。

一方で、燃料確保や点検、騒音対策、排気対策、設置場所の確保が必要です。導入時は、本体費用に加えて燃料タンクや切替盤などの周辺設備も確認しましょう。加えて、保守点検や試運転の体制、消防法などの関係法令、燃料保管の条件、所轄消防署への確認も行います。

蓄電池・UPS

瞬低や短時間停電から制御機器やサーバーを守る用途に向いています。電源が一瞬落ちるだけで制御システムが停止する工場では、再起動の手間や生産ロスの低減につながるでしょう。

ただし、工場全体を長時間動かすには容量や費用の面で限界があります。非常用発電機と組み合わせる場合は、短時間の電源維持をUPSや蓄電池、長時間の給電を発電機で担うなど、用途を分けて設計しましょう。

太陽光発電との組み合わせ

平常時の購入電力量を減らす方法として活用できます。ただし、通常の太陽光発電設備が停電時にそのまま使えるとは限りません。

停電時にも使う場合は、自立運転機能、蓄電池、切替盤などを備えた構成か確認が必要です。BCP対策として導入するなら、停電時に電力を送る設備をあらかじめ決め、その範囲に合う設備構成にしておきましょう。

電力契約・調達先の見直しは補助的な対策

電力契約や調達先を見直しても、送配電網の停電そのものは防げません。非常用発電機や蓄電池の代わりではなく、電気代や契約条件の変化に備えるための対策です。

契約プランを定期的に確認しておくと、電力コストの上昇や供給条件の変化に気づきやすくなります。停電対策とは分けて考えながら、エネルギー管理の一部として見直しましょう。

停電時に必要な電力量を見積もる

必要な電力kWと運転時間を分けて決める

非常用電源を選ぶ前に、動かしたい設備と電力、起動時に流れる電流、必要な時間を確認しましょう。「何kWを何時間動かすか」は、発電機や蓄電池の大きさを考えるときの目安です。

例えば、冷蔵設備を8時間動かす場合と、制御盤を30分だけ守る場合では、用意すべきものが変わります。起動時に大きな電流が必要な設備もあるため、普段使っている電力だけで判断しないことが大切です。

投資額と損失額を比べる

BCPのための投資は、省エネ設備のように毎月の削減額だけでは見えにくい面があります。停電で失う売上、復旧にかかるコスト、廃棄ロス、納期遅れ、取引先への影響を算出し、導入費と見比べましょう。

停電はめったに起きないから後回しにするのではなく、起きたときにどれだけ損をするのかを数字で見ておくことが大切です。防災の話だけで終わらせず、経営上のリスクとして社内に説明できる形にしておきましょう。

20分の停電で大きな損失が出た半導体工場の事例

2018年3月、韓国・平沢の半導体工場で停電が起き、生産ラインが約20分止まりました。同社は停電により約500億ウォンの損失を計上したとされています。

工場内の変電設備が故障し、非常用電源装置が動いたものの、電気をまかなえたのは約20分間でした。その後、変電所が復旧するまで工場への電気が止まった事例です。

平常時の省エネ対策がBCPにも効く

普段から使う電気が多い工場ほど、停電時に用意する発電機や蓄電池も大きくなります。つまり、省エネは電気代を下げるだけでなく、停電への備えにも関わる取り組みです。

例えば、照明をLEDに替える、効率のよい空調を入れる、コンプレッサーの動かし方を見直す、電気を多く使う時間帯をならすなど、普段の使用量を下げておけば、必要な電源や燃料も抑えられます

停電対策を考えるときは、非常時に電気をどう確保するかだけでなく、普段の電気の使い方も見直すことが重要です。

アンケートでは蓄電池の設置を検討する工場もある

自社調査では、今後導入・更新を検討している省エネ設備として「蓄電池の設置」を選んだ人が8.3%でした。割合は大きくないものの、停電時の備えや電力使用の平準化を考えるうえで、蓄電池は検討候補の一つになります。

ただし、BCP対策では蓄電池を入れるかどうかだけでなく、どの設備を何時間動かすのかを先に決めることが重要です。非常用発電機、UPS、太陽光発電、電力契約の見直しなどを組み合わせ、自社の稼働継続に必要な電力を整理してから設備を選ぶ必要があります。

「※調査時期・調査対象数・調査方法・調査エリアは東京担当者にて後日記載※」

停電対策は設備導入前にBCP設計から始めよう

発電機や蓄電池を入れる前に、停電時に何を守るかを決めておきましょう。必要以上に大きな設備を選んだり、逆に容量が足りなかったりする事態を避けるためです。

守る設備が決まれば、必要な電力や運転時間も具体化できます。設備費だけで判断せず、止まったときの損失や復旧にかかる手間も見ておけば、社内で説明する根拠も明確です。

停電対策は、非常時だけの話ではありません。普段の電気の使い方を見直して必要な電力を抑えておけば、非常用電源の規模を判断する材料になります。まずは設備を買う前に、自社に必要な備えの範囲を決めておきましょう。

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