エネルギー調達リスクを分散する戦略

目次

電気代高騰は、契約先変更だけでは解決できません。市場価格や燃料費、契約更新など、リスクは複数あります。本記事では、経営層が考えるべき電力調達リスクの分散方法を説明します。

工場の電力調達リスクとは何か

価格変動リスク

工場の電気代は、基本料金と電力量料金だけでは決まりません。燃料費調整額、再エネ賦課金に加え、契約メニューによっては市場価格調整額などが加わるため、使用量が同じでも請求額が増えることがあります。

製造業では、電気代の上昇が製造原価に直接響く要素です。取引先との価格交渉がすぐにできない場合、上がった電気代を自社で負担することになり、利益率が下がるでしょう。電気代は単なる固定費ではなく、工場の利益と事業を続ける力に関わるリスクです。

供給・取引先評価のリスク

電力調達リスクは価格だけではありません。停電や電力不足で操業が止まる、契約条件が変わる、CO2削減への対応が遅れるなども工場経営に響きます。取引先から環境対応を求められる工場では、電気をどう使い、どう調達しているかも見られるでしょう。

そのため、電気代、安定して使えるか、CO2削減への対応、停電時の備えなどは、分けて考えることが大切です。経営層は、電力調達を購買部門だけに任せず、工場の利益や取引先対応、事業を止めない備えとあわせて判断する必要があります。

リスク分散の基本は3つに分けて考える

1.買う電気を減らす

最初に考えるべきことは、買う電気を減らすことです。どれだけ安い契約を選んでも、使用量が多ければ電気代は大きくなります。省エネは、価格変動リスクを受けにくくする基本対策です。

LED化や高効率空調、コンプレッサーのエア漏れ改善、デマンド管理、EMSによる見える化は、購入電力量やピークを下げる手段になります。契約や太陽光を検討する前に、自社の無駄な使用量を把握し、購入電力量とピーク電力を下げる余地を特定しましょう。

2.買い方を分ける

次に、電気の買い方を分けることを考えます。電力会社との契約だけに依存するのではなく、自家消費型太陽光やPPA、再エネメニューなどを組み合わせることで、外部価格の変動を受ける範囲を小さくできるでしょう。

ただし、手段を増やせばよいわけではありません。契約期間、単価、解約条件、屋根利用、メンテナンス責任を並べて比較し、外部電力への依存度をどこまで下げるかを決めます。リスク分散は、複雑な契約を増やすことではなく、外部電力への依存度を下げ、価格変動の影響を受ける範囲を小さくすることです。

3.止まらない備えを持つ

停電時に操業を止めにくくするには、電気代の対策とは別に非常用電源を考える必要があります。蓄電池や非常用発電機、燃料備蓄は、電気代を下げるためではなく、重要な設備を動かし続けるための備えです。

BCPでは、守る設備と必要な稼働時間を先に決めます。そのうえで、平常時のコスト削減と非常時の電源確保を分けて設計しましょう。

主な電力調達手法の比較

比較表で整理する

電力調達の方法は、それぞれ得意なことと注意点が違います。以下では、契約見直し、自家消費型太陽光、PPA、蓄電池、非常用発電機、省エネ設備更新を、目的や向いている工場ごとに比べました。

手法 主な目的 特徴 注意点 向いている工場 確認すべき項目
電力会社契約見直し 電気料金の適正化、価格変動対策 既存設備を大きく変えずに料金条件を見直せる 市場連動、契約期間、解約条件により負担が変わる 請求額や調整単価の変動が大きい工場 料金内訳、契約期間、上限単価、更新条件を比較する
自家消費型太陽光 購入電力量の削減、CO2削減 昼間に発電した電気を自社で使い、外部から買う電気を減らせる 初期費用、屋根条件、維持管理費、発電量の季節変動を見込む必要がある 昼間の電力使用量が多く、屋根や敷地を活用できる工場 時間帯別使用量と発電量を重ね、導入規模を決める
オンサイトPPA 初期費用を抑えた太陽光活用 第三者が設備を設置し、工場は発電した電気を購入できる 長期契約、屋根利用、途中解約、設備撤去条件の影響を受ける 初期投資を抑えながら再エネ電力を使いたい工場 契約単価、契約期間、屋根改修予定、停電時利用の可否を整理する
オフサイトPPA 再エネ調達、CO2削減 敷地外の発電設備を活用し、再エネ調達を進められる 契約設計が複雑になり、長期の電力需要見通しが必要になる 屋根や敷地に制約があり、CO2削減要請に対応したい工場 契約期間、調達量、環境価値、需要変動への対応を確認する
蓄電池 ピーク対策、停電時の一部電源確保 電力ピークの抑制や非常時の電源確保に使える 容量、出力、劣化、設置費用により使える範囲が変わる 重要設備を短時間でも止めにくくしたい工場 守る設備、必要時間、必要容量を先に決める
非常用発電機 BCP、停電対策 停電時に重要設備へ電力を供給できる 燃料備蓄、点検、騒音、排気、設置場所の管理が必要になる 操業停止の損失が大きい工場 稼働させる設備、燃料、運転時間、保守体制を設計する
省エネ設備更新 購入電力量とピーク電力の削減 使用量そのものを下げ、価格変動の影響を受ける範囲を小さくできる 設備更新費用、回収期間、操業への影響を考える必要がある 空調、照明、コンプレッサーなどの使用量が大きい工場 使用量、ピーク、更新費用、回収期間を並べて優先順位を決める

単価だけで比べると、契約期間や維持管理費、屋根の条件などを見落とすことがあります。導入後に困らないよう、費用だけでなく運用面まで含めて比較しましょう。

目的別に整理する

電力調達の手法は、何を優先したいかによって選び方が変わります。電気代を下げたいなら省エネや自家消費型太陽光、価格の変動を抑えたいなら契約見直し、停電に備えたいなら蓄電池や非常用発電機が候補です。

「安そうだから」という理由だけで導入すると、必要な効果が得られないことがあります。まずは自工場で困っていることを整理し、目的に合う手段を選ぶことが大切です。

PPAを使う場合の注意点

契約条件を見る

PPAは、太陽光発電設備を第三者が設置し、工場が発電した電気を購入する仕組みです。初期費用を抑えやすい反面、長く使う契約になるため、将来の工場計画と合うかを先に見る必要があります。

例えば、契約期間中に屋根改修や設備変更が入ると、太陽光設備の移設や撤去が必要になるかもしれません。単価だけで判断せず、途中解約や設備撤去、メンテナンスの責任まで含めて、稟議前に把握しておきましょう。

BCP用途とは分けて考える

PPAで太陽光を入れても、停電時にそのまま使えるとは限りません。停電時に重要な設備へ電気を送るには、自立運転機能や蓄電池、切替盤などが必要になる場合があります。

そのため、PPAを検討するときは、平常時の電気代削減と停電時の備えを分けて考えなくてはいけません。BCPにも使いたいなら、契約前に停電時に使える範囲と、守りたい設備を具体的に決めておきましょう。

自家消費型太陽光を使う場合の注意点

自家消費率を見る

自家消費型太陽光で大事なのは、発電した電気を工場内で使い切れるかです。昼間の電力使用量が多い工場なら、買う電気が減り、電力単価の変動を受ける範囲も小さくなるでしょう。

一方で、昼間に使う電気が少ない工場では、発電した電気が余る場合もあります。導入前には、時間帯別の使用量と発電量を重ね、無理のない設備規模を決めましょう。

維持管理費も見る

自己所有で太陽光を入れる場合は、導入後にかかるコストまで見ておくことが大切です。メンテナンスやパワコン更新、保険、屋根点検などが必要になるため、初期費用だけでは判断できません。

屋根の耐荷重や防水に不安がある場合は、太陽光の前に屋根改修が必要になることもあります。電気代削減だけで急がず、建物の状態と運用中のコストを含めて投資の優先順位を決めましょう。

契約見直しで確認すべき項目

請求書で見る項目

契約を見直す前に、まず請求額がどこで増えているのかを見ます。使用量なのか、ピーク電力なのか、燃料費調整額や市場価格調整単価の影響なのかで、取るべき対策は変わるでしょう。

総額だけを見て契約先を変えても、原因が使用量やピークにある場合は効果が限られます。請求書の内訳から値上がりの要因を分け、省エネ、デマンド対策、契約見直しのどれを優先するか決めましょう。

契約書で見る項目

契約書では、安く見える単価だけでなく、料金が変わる条件まで見ておきましょう。市場連動の有無や契約期間、更新・解約の条件によって、将来の負担が変わることがあります。

営業提案の試算は、市場価格が低い時期を前提にしているケースも少なくありません。価格が上がったときにも予算内に収まるか、自社の利益を圧迫しないかまで確認してから判断します。

省エネで購入量を減らした工場の考え方

省エネで購入量を減らした工場は、電気の買い方だけで電気代を抑えようとしていません。まず使用量とピーク電力を下げ、その後で契約見直しや自家消費型太陽光を組み合わせています。

  • 照明や空調を見直し、日常的な使用量を下げる
  • コンプレッサーの運用を改善し、無駄な電力を減らす
  • デマンド管理でピーク電力を抑える
  • 減らした使用量に合わせて、契約容量や設備規模を決める

エネルギー調達は工場の体質改善として考えよう

エネルギー調達の見直しは、電気を安く買うためだけの話ではありません。使う量を減らして買い方を見直し、止まったときの備えを決めることで、価格変動や停電への耐性を高めます。

電気代が上がるたびに契約先だけを変えていると、使用量の多さや停電時の弱さは残ったままです。まずは自工場の使い方を見直し、そのうえで契約や太陽光、非常用電源を必要な範囲で組み合わせましょう。

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